実例紹介

実例1 北名古屋市「つながりの杜(もり)」

物件データ

愛知県北名古屋市

土地200年、建物100年をリノベーション

建物のよさはそのまま活かしてリノベーションを行い、母屋を「カフェ(セミナー・ギャラリーとしても利用可能)」と「小規模な事務所または店舗」として、離れは健康や美容に関する事業所の店舗として活用。

古民家plus北名古屋「つながりの杜」
~新しい物語が生まれる場所へ~

全国には約156万戸の古民家があるという(古民家びとレポート:「総務省 平成25年住宅・土地統計調査」からみる古民家の現状についてより)。中には新たな住人が見つかったり、旅館や店舗などの商業施設や観光施設として活用されているものもあるが、その多くが維持の問題にぶつかり、放置され、また解体・廃棄されていくのが現状だ。
そんな中、2021年、名古屋からほど近い北名古屋市の住宅街の一角に、古民家を改装した小さな商業施設がオープンするという。その名も「古民家plus北名古屋“つながりの杜(もり)”」。
建物のよさはそのまま活かしてリノベーションを行い、母屋を「カフェ(セミナー・ギャラリーとしても利用可能)」と「小規模な事務所または店舗」として、離れは健康や美容に関する事業所の店舗として活用していく予定であり、現在入居者を募集している。

「古民家plus北名古屋“つながりの杜(もり)”」がどんな経緯で、またどんな思いで開設されることになったのか。オーナーの兼松稔さんに伺った。

なんとかこの場所を活かしたいという想い

取材に先立ち、古民家を見学させていただいた。立派な縁側から見える美しい庭。急な階段を上った屋根裏にある立派な梁(はり)。床の軋み(きしみ)も100年という年月の重みを感じさせる。
この家で生まれ育ったというオーナーの兼松さん。15年ほど前に、両親を相次いで見送り、それからというもの、この家を見るたびに、この家屋をこれからどうしたらいいのだろうかと考え続けてきたという。
「せっかく親が残してくれたもの。うまく次の時代に引き継いでいけないだろうか、活かせないだろうか、とずっと考えていたんです」。
家屋の状況を専門家に見てもらったところ、手を入れれば十分に使っていけることはわかった。誰かに貸して使ってもらおうか。ただ、貸すといってもどうやって…?
この敷地をひとつの事業所に丸ごと貸してしまう案をはじめとして、いくつもの選択肢がある中で、専門家にも相談しながら、レンタルスペースとして、複数の事業者の方々に入居してもらおう、という方向性を決めた。現在はリノベーションがはじまり、見学会なども開催しながら、入居団体の募集中である。

土地200年、建物100年の重みとともに

もともと兼松家は宮大工を祖先に持つという家系。さかのぼればおそらく200年ほど前、兼松さんは8代目にあたる。祖父の代以降は、農業と不動産の賃貸業を兼業してきたという。長男として、その代々の土地や建物を引き継いだ兼松さんだが、若いころは「継ぐ」ということから逃げ回っていた時期もあったという。「大学で東京に出て、そのまま東京で就職して。ただ、親はずっと戻ってこいと言っていました。最後には母親に泣かれてしまって、それで、仕方なく戻ってきたんです」。
もともと広告プロモーションの仕事を長く続けてきた兼松さん。若いころはバブル景気の真っただ中でもあり、文字通り「24時間働く」ような日々だったという。バブル以降も仕事は途切れることなく、ある意味無理な働き方をずっと続けてきた。そろそろ少し働き方を変えてもいいかな、と考え、独立自営の道へ。現在はこの古民家の敷地の一角でカイロプラクティックの施術院を開業している。
一方で、兼松さんはもう一つの顔を持つ。トライアスロンの選手なのだ。30代の頃に健康診断で生活習慣の指導を受けてから、運動の必要性を感じ、ちょうどその頃知ったトライアスロンの世界に憧れたという。「だってカッコいいじゃないですか(笑)。」
まずは、ランニング、マラソンからはじめ、その後トライアスロンを集中して学び、数多くの大会にも出場してきた。スポーツの中でもとりわけ過酷なトライアスロン。兼松さんは「大会に出てゴールをすると、これでやっと苦しい想いをしなくて済むって思うんです」と笑う。それでも続けているのは、競技そのものの面白さに加えて仲間の存在も大きいという。トライアスロンは、レースの最中も、そしてトレーニングの間も、自分自身と向き合う時間だが、それでも、励まし合い、支え合える仲間の存在はかけがえのないものなのだ。
広告プロモーションの会社で働いていた時代も、そしてトライアスロンの中でも、チームで動くことや、仲間と支えあうことをずっと大切にしてきた兼松さん。今、この古民家plusのプロジェクトにも、心からわくわくしているという。「いろんな人の力を借りて、ひとつのことを創り上げていくのが楽しい」と語る。

「創っていくことができる人」と一緒に

ここがどんな場所になってほしいと思いますか?と尋ねると「大人が日常のなかでちょっとゆったりできるような、ほっとして、癒されて、元気になってもらえるような。そんな場所になってくれたら本当に嬉しい」とのこと。大人とは、年齢で区切るものではなく、「大人のマインド」を持った人、だそうだ。
例えばこだわりの商品やこだわりの時間を提供する事業など、「この場所の魅力を理解して、それを活かした事業展開をしてくれる事業所に入ってもらえたらいいなと思っています」。
このレンタルスペースは、家賃をかなり安価に設定しているが、掃除やメンテナンスはそれぞれの事業所が担うという。それは、この場所を「自分たちで守り、育てていく」想いを共有したいという願いの表れでもある。完成された場所として消費するのではなく、この古民家を媒介に、様々な事業所とそこを利用する方々がゆるやかにつながるコミュニティ。それが兼松さんの描く「古民家plus北名古屋」の姿だ。
今回のプロジェクトは、本当にたくさんの偶然が重なって立ち上がったものだという。「周りには他にもたくさん同じような古い民家があります。でも、みなさん、維持するのに精一杯で、活用というところまでいかないのが現状です。その大変さは自分もよくわかる。ただ、自分にはたまたま、相談にのってくれる人が周りにたくさんいてくれて、資金的にも、タイミング的にも、こうしたプロジェクトを新規事業として立ち上げられる条件がちょうど揃った、ということだと思うんです」。
兼松さんの今までの経験、出会い、つながり。それらがすべて注ぎ込まれる場所だからこそ、新しく始まるこの場所自体も、新しい経験や、出会いやつながりが生まれる場所であってほしい。決して、堅苦しく制約のある場所にするつもりはないけれど、この場所を大切にしてくれる人、この場所に重ねられてきた歴史と時間に敬意を持ってくれる人と一緒に、この場所の新しい一歩を創っていきたい。
この場所を「受け継ぐ」ことの重さ。一度はそこから逃れようとしたこともある兼松さんだからこそ感じる、次の時代への願いなのかもしれない。
古民家plus北名古屋「つながりの杜」の立地は、最寄り駅からも少し距離がある住宅街(※駐車場スペースはあり)。決して都会的な便利さがある場所ではない。でも、この場所には、この場所にしかないものがある。
ここには、すでにたくさんの人の想いが注ぎ込まれつつあり、積み重ねられた100年の時間の上に、新しい時が刻まれ始めている。
新しい物語が生まれる場所へ。

取材・文:久野美奈子

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